Book Diary |
日頃ただ読み散らかしているような本について、ここで紹介しながら自分的に整理してみようなどと考えていま す。ただし経済的理由により、文庫本および新書の類が中心で、ハードカバーの最新刊は、まずご紹介できま せん。また本の内容についても 非常に個人的な偏りがあることをお許しください。 |
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10月〜11月 | ||
「ローマ人の物語」 |
「ローマ人の物語」は、塩野さんが書き続けていらっしゃるローマ千数百年にわ たる歴史のシリーズです。1,2巻「ローマは一日にしてならず」は半年ほど前 に読みました。今回読んだ3〜5巻は「ハンニバル戦記」とあるように、ローマと カルタゴ間で戦われたポエニ戦役が中心となっています。ハンニバルは、もち ろんその時のカルタゴの英雄なのですが、高校時代の担任でもあった世界史 の先生が熱っぽく語っておられたのを思い出すのです。教えている方がそのこ とに本当に興味を持って教えていると、教わる方にも伝わるもので、「ハンニバ ルは父親のハミルカル・バルカスがスペインの植民地で開いた銀鉱山の資産 を背景に軍を組織し、象を連れてアルプスを越えイタリア半島に攻め入り、ロー マを危機に陥れた。」などということを今でも覚えているのです。しかし自分の 興味のあるところばかり深く掘り下げすぎて、近代史は教科書を読んだだけ、 現代史にはとうとう到達しなかったのですが・・・。今なら受験がどうのと文句を 言う奴もいるのでしょうが、学校の勉強と受験は別というのが暗黙の了解で、 受験科目に世界史を取っていた奴も「しょうがないなあ。」という程度のおおら かな時代でした。それよりその熱意が伝わり世界史に興味を持つというほうが 大切なのではないでしょうか。私は理系ということもあり授業を素直に楽しく聞 いていたのですが、ハンニバルやハミルカル・バルカスという名も、ジョン・カー ターやタルス・タルカスと同じレベルで理解していたようです。話は全くそれてし まいましたが、歴史物語については、本をお読みください。物語からは、2000 年以上も前に生きた、ハンニバルや彼を倒したローマのスキピオの英雄として の華々しさと、それとの裏返しとも言える孤独や悲哀が伝わってきます。また この時期がローマのその後との大きな転換期であったことがわかります。今の イタリアブームに、ブランドや食べ物ばかりでなく、歴史に目を向けてみるのも 一興かと・・・。 |
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「脳男」 |
その意味不明のタイトルと派手な銀の帯に本を手に取り、カバー解説を見ると、 第46回〈2000年)江戸川乱歩賞にて全選考委員が絶賛とあり買ってみました。 タイトル同様主人公のあまりに突飛な人物設定は、納得するしないのレベルを 超えてSF的で、SF好きの私にはかえって簡単に許容できてしまいました。主人 公となる人物のナゾ解き風の生い立ちトレースによる説明や、このお話の山場 となる連続爆弾犯とのやりとりは、テンポよく展開していき、危うく一気に読まさ れてしまうところでした。(現在本代節約のため、会社の昼休みなど1日1時間 程度と時間を限って本を読んでいるのです。)また「脳男」とは何なのかというこ とに興味のある方は、本を読んでいただくとしてもこのおもしろさは、養老先生 の「唯脳論」以来脳に関する話題がブームのようになっていますが、現在科学 分野でも医学生物学、心理学などばかりでなく、機械工学や言語学などの分 野からも脳へのアプローチが始められるようになっており、一般から専門分野に いたるまで脳に関する話題が今面白いということがあるようです。お話の終わり かたとしては、続きもありそうなのでまた待つ楽しみが一つ増えたようです。 |
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「満月 空に満月」 |
歌手 井上陽水の評伝です。子供の頃から、アルバム「氷の世界」が25歳で 大ヒットするまでのお話が中心に書かれています。当時 吉田拓郎などフォーク ソングと呼ばれていた音楽をよく聞いていた私には、井上陽水の「傘がない」に なんデこんな歌詞が歌になるのだろうという強烈な印象が残っています。フォー クソングとして扱われていましたが、当時の私のこれはフォーこソングではない という思いは、この本を読んで本人もそう思っていなかったことがわかり、納得し ました。また独特の歌詞についても、作詞の秘密が明かされています。その他 のエピソードについては、リアルタイムで興味を持って彼の歌を聞いてきたので すでに知っていたことが多かったように思います。新刊本としては、1995年に出 版されていたようですが、もう少し早く文庫化して欲しかった本です。 |
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「漆芸 |
本のタイトルを見て、漆芸といえば日本独特の工芸なのにどういうことなのかと いう思いからこの本を買ってみました。著者によれば、漆芸の最もレベルの高い 作品は、江戸時代のものであり、作品のほとんどは現在 海外にあり、それらを 作り出した技術も国内では、ほとんど継承されていないというお話でした。また その原因は、日本の工芸や美術の世界の在り方にあるということのようです。 その辺のことは門外漢の私にはよくはわかりませんが、芸術に限らず現在の日 本の風潮を見れば、さもありなんというところでしょうか。本の後半は、著者が漆 芸の修復という未知の分野に海外で挑戦し、それを通して自らの技術を磨いて いく姿が描かれています。その力強い生き方には迫力があり、日本の硬直化し た社会への批判や、言動には説得力があります。読後感は極めて痛快です。 |
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「極楽に行く人 |
我国の妖怪物の分野のパイオニアともいえる水木先生は、80歳を超えた今もな お現役でいらっしゃるのには頭が下がります。政界では辞めろと言われて怒っ ていらっしゃるご老人もおいでのようですが、そう言われるということはすでに終 わっているということで、昔とったキネズカでは通用しないのです。昨今の妖怪 ブームでは、その博覧強記ともいえるウンチクの嵐をもって絶大なる人気の京極 夏彦氏や、珍奇なるものの権化ともいえる荒俣宏先生とコラボで「怪」なる本を 作られていらっしゃるのも、この分野を現役でリードされていらっしゃる証ではな いでしょうか。先月の勲章をもらったときの「80歳ではすでにこの世とあの世の間 にいるようなものでその分感激も薄く、せめて80前にもらいたかった。」というご 感想は秀逸でした。いつもながら本とは全く関係のないお話でしたが、この本は すでに人生の後半にさしかかった大人の心のあり方をとく、大人の絵本というこ とだと思うのですが・・・。 |
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「原罪の庭」 |
建築探偵桜井京介の事件簿の第5弾です。シリーズ名の通り毎回ユニークな建 築物が舞台となって重要な役割を演じるのですが、今回はこのシリーズのメイン キャラクタの一人、「蒼」の生い立ちと京介の関係が描かれているからか、事件 の舞台は、温室ということでユニークではありますが、脇を固めるといった役割と なっています。シリーズ当初からの京介、蒼、神代教授、深春(今回は出てこな い)といった登場人物の不思議?な関係などが、事件を絡めて回を追って明かさ れていっているわけですが、すでに何回かの作品を通してでき上がっているキャ ラクタのイメージを壊さないようにお話を作っていくのは、難しいだろうなあなどと 感心してしまうのです。もちろんシリーズ全体の構想があってあらかじめストー リーも作ってはあるのでしょうが、細かいディテイルとうは後から書いていくのでし ょうから大変そうに思えるのです。それともすでにみんな書いてあって発表する 順番を変えているということなのでしょうか。どうもつまらないことばかりに気が行 ってしまう性格ですが、その辺のことはプロにお任せして、読者としては素直に お話を楽しませていただくのです。ただこのシリーズは、単行本としてかなり先ま で進んでいるようなのですが、文庫化は年一冊ペースということで、最近メッキリ 記憶力が低下している私には、せめて半年に一冊ぐらいで記憶が繋がっていく ペースにしていただきたいのです。 |
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「養老猛司 |
養老先生の本は最近本屋でもやたらに多いのですが、これは前回upした「ガク モンの壁」に続く研究者との対談シリーズの第2弾です。先生の専門の「脳」が テーマです。一般に物事を解明していくとき、その物事自体を直接観察したり、 調べたり、はたらきかけたりするのが普通ですが、それとは別にその物はこうだ ろうという仮説を立ててモデル化し、そのモデルを通していろいろシュミレーショ ンを行い、それが物事と一致していればその仮説は正しいのではないかとして、 物事を探究していく方法があります。今回はこの後者の工学的アプローチで(も っともらしいことを書いていますが本当でしょうか。間違っていたらごめんなさい。 )脳を探究している研究者の方々との対談が多いようです。もちろん私などには、 その本当の高度な内容については解らないわけですが、現代の科学の最先端 にある脳の研究のおもしろさや、それを行っている研究者の楽しさが伝わってき ます。ぜひ未来のある若い人たちに読んでもらいたい一冊です。(この一文を若 い人たちが読むかということに関してはかなり疑問があるところですが・・・。) |
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「ブラックジャックに |
マンガはなるべく買わないようにしているのですが、(好きなのですが一般の本 に比べるとコストパフォーマンス 時間/価格 が悪いので、)現在これだけは買 っているのです。最近日本のアニメやマンガは、独自の文化として海外でも評価 されていることから、逆に国内でもその価値を認められつつあるといういつものバ カな現象が起きていますが、いまやお話を作れる有能な人の多くがマンガの世 界にいっているというのが現実ではないでしょうか。最近ちょっと話題になったテ レビドラマの多くが、マンガが原作だというのは皆さんご存知の通りです。数年 前の浦沢直樹の「MONSTER」は、既刊分を読むのに近所中の本屋を探し回った 覚えがあります。もちろん新刊は発売当日に買いました。こんなお話がマンガで 描けるのだ驚きで、私の長年のマンガ感を覆すほどおもしろかったのです。この 「BJによろしく」は、現在の医療の世界を舞台に一人の新人医師の行動を描い ているわけですが、キチッと取材もした上でお話が作られているようで、今テレビ で大宣伝をして話題になっている「白い巨塔」よりもよほど現実味があり、人間の 生死と直結している医療の世界が自分の問題として身につまされ考えさせられ ます。マンガとバカにしないでご一読を。「MONSTER」もおすすめです。 |
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「やぶにらみ科学論」 |
養老先生の虫友のお一人池田先生(山梨大学の教授)の書かれた本です。私 は昔から虫が好きで(一日中アリの巣の前でしゃがみこんでアリを見ているよう な子供だった)奥本大三郎先生(埼玉大学教授、日本昆虫協会会長)の虫のエ ッセイが好きで、よく読んでおりそのつながりから養老先生や池田先生の本も読 むようになったのです。ちなみにお三人で「三人寄れば虫の知恵」なる対談集も 出されています。養老先生は鋭い視点から物事を見て、論理的にお話を展開な さるので、実は非常に過激なご意見もソフトにみえてしまうのですが、池田先生 は、その後意見をわざと露悪的にストレートにお書きになるので、読んでる方が そんなことまで言っちゃっていいのかなと心配になるくらいなのです。私などが日 頃何か変だよななどと思っていることを、論理的にスッキリ説明してもらったよう で、大変痛快な気分にさせてもらえるご本なのです。 |
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